そもそもマーケティングの定義自体がよくわからない方も多いのではないでしょうか。すごくかんたんに説明すると「商品・サービスを売るための仕組み作り」です。
かんたんには表せるものの、やろうとしたらとても奥が深く、考えかたや手法もいろいろなものがあります。いまやビジネスでは不可欠な要素であり、たくさんの方々が学習しようとしているマーケティングに関する内容を初心者でもわかるように事例も交えながら解説します。
基本的な考えかたや立案手順、フレームワークの解説を行うとともに、企業事例やおすすめの書籍もあわせて紹介します。
マーケティング戦略ってなに?
マーケティング戦略とは、以下の内容を決める取り組みのことをさします。
①誰に
②どのような価値を
③どのような方法で提供するか
残念ながら「自社の商品・サービスが完成」=「たくさん売れる」ということはまずありえません。
商品開発の段階から市場調査を行い、競合と差別化できる要素は何か、誰に買ってもらうのか、どのように情報発信をして顧客に知ってもらうのかなどのいろいろな項目を埋めあわせてゆくことで『モノ』が売れる仕組みが作られていくのです。
マーケティング戦略の重要性
インターネットの普及で、世の中の情報発信・情報収集に関わる状況は急速な変化がおこりました。これまではテレビCMや新聞・雑誌広告などの「マス広告」で不特定多数の人々に情報発信をして商品・サービスの認知を促すことが一般的でした。
しかし、近年では『テレビをあまり見ない』『テレビを持っていない』という若者も多くいます。これまでのテレビを視聴していた時間がスマホのいろいろなアプリに分散してしまったのです。
よって、これまでのようにひとつのメディアで集中的に情報発信するだけでは、リーチ数も費用対効果も悪くなりがちです。だからこそ、「どの媒体に」「どのような割合で」「どのように顧客へ向けて情報を発信していくか」をあらためて考え直さなければいけなくなりました。
以上のことから、マーケティング戦略を行うことは、限られた人や手数をどこに集中させるかを検討・実行するために重要です。
マーケティング戦略のポイント
商品・サービスを提供するときには、競合との差別化を図り、自社にしかない付加価値をつけることが重要です。しかし、現代はモノが飽和していて差別化を図ること自体も難しくなっています。
さらに、SNSの普及により個人での使用感、口コミを誰もがかんたんに発信できるようになり、ただ商品・サービスを提供するだけではなく「これが欲しい」と思ってもらえるような商品・サービスを提供することがポイントです。
また、顧客に向けて情報発信する場合には、それぞれの顧客についての分析が重要です。年齢や性別、家族構成や好きなことなどのいくつもの情報を適切に分析し活用しましょう。
現在は顧客のニーズや行動が速く変化していく世の中です。このような変化にも対応するためにもマーケティング戦略をしっかり立ててブレない軸を持つことがポイントです。
マーケティング戦略の立案手順
マーケティング戦略については何となくわかったけど、それを実現するためには何をすればいいの?そんな不安をお持ちのあなたにマーケティング戦略を立案するまでの流れを解説します。
内部環境と外部環境を分析する
まずは環境分析を行い、自社商品がどのような状況にあるのかを把握します。ここでは以下の内容に関して注目して分析してみましょう。
・自社の強み・弱み
・商品・サービスの強み・弱み
・社内のリソース(コストやリソース)
さらに、外部の環境分析も行います。ここでは以下の内容に関して注目して分析してみましょう。
・顧客について(顧客の属性やニーズ)
・市場について(市場のトレンドや世界情勢)
・競合について(競合の商品やシェア率)
以上の内部環境、外部環境をふまえて、これから提供する商品・サービスの状況をしっかりと把握しましょう。
狙うべきターゲットを決める
次に市場の不特定多数の顧客をさまざまな切り口で分類し、特定の属性ごとに細分化します。性別、年齢、好きなものなどの条件で分類していくことで、自社がアプローチしなければいけない市場がわかります。
市場を細分化したらその中から狙うべきターゲットを選びます。自社の商品・サービスが勝負するのに適した市場を選ぶことができれば、マーケティングのコストを抑えることができるのです。
「絞ったらその分だけ市場が小さくなり売上が小さくなるのでは?」と考えた人もいるでしょう。もちろん少なからずその懸念はあります。
しかし、モノが飽和している現代では大衆向けの商品・サービスを提供してもヒットが難しい状況です。いかに自社の商品・サービスを必要としている人を見つけ出し、そこにアプローチするということが結果的な売上アップにつながります。
競合と被らないポジショニングを探す
次に市場の中で自社はどのような立ち位置につくのかを決めます。漠然とポジショニングを設定してしまうと市場の中で競合と戦って勝ち残るのは非常に難しくなります。
以下の例のように2軸でポジショニングマップを作製し、自社が持つ強みを訴求できるポイントを洗い出してみましょう。
注意すべき点は「顧客ニーズをしっかりと満たす」ように考えることです。自社と競合他社の観点に注目して差別化を図りやすい要素で軸を設定しないと顧客を置き去りにしていまうことになりかねません。
競合他社の商品・サービスをポジショニングマップに配置したら、自社がどこのポジションでなら有利に戦えるかを検討します。マップ上で埋まっていない場所があれば、そこを狙うことで自社の価値を提供しやすくなります。
しかし、そのポジションが商品イメージ・ブランドイメージなどとしっかりマッチするかはしっかりと確認しましょう。
顧客にどんな価値を提供できるかを定義する
次に顧客にどのような価値が提供できるのかを定義します。これは以下の項目を重ね合わせることで見えてきます。
・顧客が望んでいる価値
・自社が提供できる価値
・競合他社が提供できる価値
これにより、現状で顧客に提供できている価値と、顧客の求めている価値の『ズレ』が明確になります。顧客は商品・サービスを購入するときには、そこに何かしらの価値を見いだしてお金という対価を支払っています。自社視点だけではなく、しっかりと顧客の目線に立って提供する価値を定義することが重要です。
どのように顧客に伝えていくか戦略を練る
最後に自社の価値をどのようにして顧客へ提供していくかを決めます。
これまで行ったことをかんたんにおさらいしましょう。
・環境を分析して状況を把握した(トレンドやリソースの確認)
・市場を細分化し、ターゲットを決めた(誰に提供するか)
・自社の強みが適切に伝えられるポジションを見つけた(どのように提供するか)
・顧客にどのような価値が提供できるかを決めた(何を提供するか)
これらのことをふまえて、製品戦略、価格戦略、流通チャネル戦略、プロモーション戦略を適切に組み合わせてマーケティング戦略を練ります。
その後、実行に移しますが必ずしもうまくいくわけではありません。競争環境や消費者のニーズ、ライフスタイルも日々変化しているからです。実行後も分析をしながら見直し、再度実行を繰り返して調整していくことが必要です。
マーケティング戦略立案に役立つフレームワーク
マーケティング戦略の立案時に役立つフレームワークについて解説します。以下のそれぞれのフレームワークの項目に内容をあてはめていくことで、戦略を練る手助けになります。
SWOT分析
SWOT分析では内部環境と外部環境を以下の要素に分けて現状を把握します。
「Strength(強み)」:自社や自社商品の長所。内部環境のプラス要素となる。
「Weakness(弱み)」:自社や自社商品の短所。内部環境のマイナス要素となる。
「Opportunity(機会)」:社会や市場の変化で、自社にとってプラスに働く点。外部環境のプラス要素となる。
「Threat(脅威)」:社会や市場の変化で、自社にとってマイナスに働く点。外部環境のマイナス要素となる。
複数の要素を正しく把握・分析することで、戦略や計画を立案することに役立ちます。
STP分析
STP分析では以下のことについて掘り下げます。
「Segmentation(セグメンテーション)」:市場の全体像を把握する
「Targeting(ターゲティング)」:狙うべき市場を決める
「Positioning(ポジショニング)」:競合他社との位置関係を決める
自社およびその製品の市場における立ち位置を明確にできるので、戦略や計画を立案することに役立ちます。
PEST分析
PEST分析では以下の外部環境が自社にどのような影響を与えるかを把握します。
「Politics(政治)」
「Economy(経済)」
「Society(社会)」
「Technology(技術)」
世の中の変化やトレンドを味方につけることで事業が成功をおさめることがほとんどです。生き残るためにも時代に合わせた事業にし、外部環境の変化をしっかりと把握することが大切です。
4P/4C分析
4P分析は「マーケティングの4P」とも言われ、以下の点から商品・サービスの戦略を立てます。
「Product(製品)」:どのような製品・サービスを提供するのか
「Price(価格)」:製品・サービスをいくらで提供するのか
「Place(流通)」:製品・サービスをどのように提供するのか
「Promotion(プロモーション)」:製品・サービスをどのように伝えるのか
これらは企業側の視点で考えられているものであり、顧客側の視点で見た以下の4C分析もあわせて使用したりします。
「Customer Value(顧客価値)」:価値のあるものになっているか
「Customer Cost(コスト)」:価格に妥当性を感じられるか
「Convenience(利便性)」:購入しやすい状態になっているか
「Communication(コミュニケーション)」:コミュニケーションを図る場があるか
以上の項目が4Pの項目と対になっており、整合性が取れていることが重要となります。
3C分析
3C分析では市場の関係性を理解し、状況を把握します。
「Costomer(顧客)」:だれが顧客なのか、どのようなニーズがあるか
「Competitor(競合)」:他社の強み・弱み、どのような評価を受けているか
「Company(自社)」:自社の強み・弱み、どのような評価を受けているか
外部要因である顧客と競合、内部要因である自社を分析することで自社の強みや弱み、独自性を把握します。
マーケティング戦略の企業事例
広告をしないスターバックスコーヒー
いまや誰もが知っていて、若者からお年寄りまでが幅広く利用するスターバックスコーヒー。しかし、スターバックスはCMや広告などに費用をほとんどかけていないのです。
スターバックスは日本に上陸以来「サードプレイス」という概念を提唱してきました。これは自宅でも職場でもない、第三のリラックスできる場所のことをさしています。サードプレイスとしてのポジションの確立、強いブランドを築き上げるためにどのようなマーケティング戦略をとっているのでしょうか。
【居心地のよい空間を作り、顧客とも直接かかわりを持つ】
スターバックスは広告による情報発信ではなく、店舗での顧客体験を創造し、その顧客からの口コミからファンを増やすことで強いブランドに成長してきました。顧客と直接関わることでブランドの良さを伝え、その顧客がSNSなどで情報を共有・拡散をするので広告宣伝費をほとんど使用することがないのです。
ただ、これを実現するためには店舗での顧客体験を上質なものにする必要があるため、スターバックスは全ての店舗を直営店として運営しています。顧客とのコミュニケーションを行う上でのささいな気配りや、快適な空間を提供するというクオリティをコントロールするためです。
数ある飲食店はフランチャイズ形式で店舗数を増やしていくのが当たり前となっていて、すごい勢いで店舗数が増えていきます。一方でスタバは地道に店舗数を増やしながら、全ての店舗で上質な顧客体験が受けられるようにしていたのです。
あえてターゲットを絞らない無印良品
通常のマーケティング戦略の立案ではSTP分析を利用しターゲットを絞ることが一般的です。しかし無印良品ではあえてそのターゲットを絞り込んでいません。これは無印良品だからこそできる幅広い商品展開が理由となっています。
無印良品では小さいものであれば消しゴムのような文房具、大きいものであれば人が住むことができる家まで取り扱っています。シンプルで誰が持っても違和感がなく、性別、年齢を問わずに使用できるものゆえに共通したターゲットを持つ必要もなかったのです。
また、無印良品は強いブランド力を持っています。「シンプルにして完結、必要にして十分」であることを目指し「感じ良い暮らしと社会」を実現するために活動しています。このビジョンが社員や顧客に共感されることで一体感を生み強いブランドが作り出されているのです。
「これがいい」ではなく「これでいい」を狙うユニクロ
ユニクロも明確なターゲットを絞っていない企業のひとつです。いえ、正確にいえば全ての人がターゲットであると表現してもいいのかもしれません。
通常であれば市場をセグメントした上で、その顧客の属性を絞り込んでターゲットを決定します。しかし、ユニクロでは顧客属性に着目するのではなく、顧客のニーズに着目してターゲティングしたのです。具体的に言うと「○○な洋服が欲しい」というニーズに合わせた洋服を生産することで、特定の顧客だけではなく、このニーズを持つ全ての顧客をターゲットにすることができるのです。
ただ、これを実現するためには大衆に共通の認識を持ってもらう必要があるためかんたんではありません。ユニクロでは購入しやすい価格である点、トレンドに左右されず長く着られるデザインである点を浸透させ、「ベーシックな普段着=ユニクロ」という共通認識を持たせることにしたのです。
そして「ユニクロがいい」ではなく「ユニクロでいい」と思わせることに成功し、独自のブランドを確立させました。
マーケティング戦略を学べる書籍
100円のコーラを1000円で売る方法
小説形式でスラスラと読める本になっています。漫画版もあり、気軽に読めるのでおすすめです。
とある会社で商品開発にあたり顧客の要望を全てかなえた商品を作成したが、売り上げがあがらず…。それは顧客満足度を十分に満たせていないという点が原因でした。「顧客満足=顧客が感じた価値-事前期待値」であり、顧客自身が見つけられていない価値を見つけてあげないと顧客満足度は上がらないのです。
ストーリーの中で、価格競争をしてはいけない理由、値引きをしてはいけない理由など、会社内で起こる色々な事例に沿って学べる本です。
戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!
こちらも小説形式でスラスラと読める本になっています。
ドトールの創業者は「毎日おいしいコーヒーを飲んでほしい」という思いから、当時のコーヒーの価格の約半値でコーヒーを提供することを決めました。しかし、安くてまずいコーヒーではお客さんが定着しないので安くしてもしっかりと味にはこだわったのです。
安くする分、多くのお客さんに買ってもらう必要がありますが、それを実現するために何をしなければいけないかをコンセプト段階から見直した事例が記載されています。この他にも実際にコーヒーを販売している企業の戦略の解説があり、「なるほど」と思えることがたくさん詰まっている本です。
そうだ、星を売ろう
こちらも小説形式でスラスラと読める本になっています。
年々観光客が減ってきている温泉郷、値引きをして顧客を集めようとしましたが継続的な顧客獲得にはつながらず…。そこでとある温泉の従業員を筆頭に「星がきれいに見える」という強みを生かした町おこしを行うことになったのです。実在する製品を売るのではなく、星を見るという【コト】を利用してマーケティングや企業の変革についてを学べる本です。